*怠惰的バリ島紀行* 
その7。暗い夜、神はそこに降りて舞う。


       


掛け声がかかった。そしてケチャが始まる。。。

舞台のかなり奥の下の方にライトが2個あるのみ。
ガスランプの灯りがゆらりゆらりと揺れるなか、男たちが舞台に出てきた。
上半身裸で、黒いサロンに白黒チェック柄のサロンを重ねてそれを赤い
帯で結んだものを身に付け、片耳に真っ赤なハイビスカスを挿した男
たちはゆらゆらと、独特の掛け声をかけながら円座になって腰掛ける。
楽器は無し。
この男たちのかける掛け声や、朗々と歌い上げられる節回しが不思議
な“場”を作っていくのだ。
弱く強く低く高く、波のように近く遠く、男たちの声が重なりあって高揚
感を生む。
円座の真ん中、大きな灯りの周りに踊り子が出てきてストーリーに合わ
せて踊る。このケチャはインドの叙事詩『ラーマーヤナ』を下敷きに作ら
れた踊りで、男性達は猿の軍団を表している。
ストーリーの展開に合わせて、猿軍団の声の調子が変わり、時に両手
を挙げて小刻みに震わせたり体を揺らしたり。
数人の踊り子が入れ替わりながらバリ独特の繊細で神秘的なダンスを
踊っていく。それにケチャの声が重なる。
そこには無いハズの音楽が聴こえてくるような、幻聴に囚われる。
以前見たケチャはもっと観光客用にショーアップされてしまっていてとても
俗っぽい感じだったのですっかり侮っていたけど、今夜見ているこのケチャ
はとても真面目で静謐な雰囲気さえ漂っている。
ガスランプだけのほの明るい感じもとても神秘的でいい。
盛り上がって終わる。

次は“サンヒャン・ドゥダリ”。すでにトランス状態にある少女が2人、担が
れて出て来る。
これは元々神憑きの踊り“サンヒャン”で、村で疫病が流行した際にこれ
を踊るようにと神から啓示された、と伝えられる奉納舞踊だ。
初潮前の少女2人を依童に、神がその中に降りてきて踊る。
私が座っていた所から少女たちの踊っている所まで少し距離があり、視界
が暗いのであまりよく見えなかったが、どうやら少女たちは目をつぶったまま
同じ踊りを舞っているらしい。
舞台中央におかれた線香の独特な匂い。
女性達の祈るような静かなコーラスから一転、突然男声のケチャにも似た
躍動感あるコーラスに変わり、少女達の舞も静から動へ激しく変わる。
トランスがピークになるといきなり少女たちは手前にぱたり、と倒れる。
抱き起こされてまた踊る、を2回繰り返し、3回目には目覚めなくなり僧侶
に聖水をかけてもらって我に返る。
神秘的で美しいダンスだった。

最後が“サンヒャン・ジャラン”。
いわゆるファイヤーダンスで、これもトランス状態にある男性が、作り物の馬
に跨って火を蹴散らかせて歩いて踊る。
前のサンヒャン・ドゥダリが終わった後、中央のガスランプが片付けられ、薪
が積まれて油がかけられ火が点けられる。
ご〜っ!とスゴイ勢いで火が燃え、かなり離れているのにその熱気が伝わ
ってくる。
そっか〜だから舞台から客席までが遠いのか、と納得する熱さ(^-^;
その薪を蹴って焚き火を崩し、その上を歩きながら更に火を蹴って歩く。
暗い中に赤く、火が軌跡を描いて撒き散らされる。
最後に火の上を踊り回る男は捕らえられ、僧侶の聖水で正気を取り戻す。
これは本当にすごかった!
正気に戻った踊り手の足の裏、真っ黒に焦げてたし。。(-.-;;

       

私はガムラン等楽器を使った民族音楽が好きなので、ガムランが無い踊り
って。。と思ったけどそんな心配は杞憂だった。
予想外に良かったので満足(^-^*
トランスが本当かどうか?なんてのは愚問。
この島にはちゃんと神様も悪魔も居て、人々は信仰心も篤い。
毎日お供え物(チャナンという、小さな平たい籠に花や食べ物が入っている
もの)を手作りして、毎朝お祈りをして回るのを日課にしている。
自分の所属する村の寺の儀式を何よりも大事に思っている。
そんな土地柄だから、こういう神憑りが有り得ても不思議ではないような気
がする。
今見られるバリのダンスは、元来あった奉納舞踊や儀礼の舞をアレンジして
観賞用にしたもので、歴史的には浅い。
けれどその元になった神に捧げる芸能はきちんと歴史のあるものなのだから。

帰る客に混じってシャツを羽織つつてろてろ歩いているケチャの格好をした
人達と並んで歩く。皆その格好のまんますぐ帰るのね(笑)

ちょっとお腹空いたかな?と思い、ホテルのすぐ向かいにある「カフェ・ワヤン」
に入る。
店員のおね〜さんの感じがあまり良くなくて、顎で示すような態度で日本人
だけ集められている入口近くの一画に案内される。
ここはもっと奥が広いのを知っていたのでちょっとムカつく。
メニューはどれも値段が高く、美味しいとガイドブックには必ず載っている
“Death by Chocolate”Rp12000とバリコーヒーRp6500でいいか。。と注文
してみる。
確かにこのケーキは美味しいかもしれないが、こぞって絶賛するほどのもので
無かった。
じゃりじゃりと砂糖の粒が口にざらつき、私としては、普通。
これでこの値段は高い!という印象。

満足感皆無ですぐ店を出る。これではお腹も納得してくれまい。。
ホテルを通り過ぎ、窯焼きピッツァで有名なロータスレーンというお店の真横
に「MENDRA’S cafe」というカフェを発見。
外に出ていたメニューを見ると良心的値段。
少し奥に入口があるみたいなのでちょっと迷ったが、えいっ!と中に入ってみ
る。暗い道をちょっとだけ歩くと現地のおっさん達が数人座ってTVを見てい
るテラスみたいなのがあった。
ん?ヤバい雰囲気かな?。。と、思い引き返そうとすると、テラスの隣にあっ
たインターネットスペースからおに〜ちゃんが慌てて駆け出してきた。
で、カフェは上だよ!と笑顔で言う。
そっか〜!テリマカシ〜!(インドネシア語で“ありがとう”)と上に上がると、
数人の客が居た。
オープンエアになっている店内はすっきりと感じが良く、店員のおね〜ちゃん
も控えめで可愛らしくていい感じ。
ここのお店の名前がついたサンドウィッチをお持ち帰りにしてもらう。
油紙にくるっと包まれたそれを持って20:50頃ホテルに戻る。

汗だくベタベタだったのでシャワーを浴びてから、サンドウィッチを食べる。
軽くトーストした薄めのホワイトブレッドにトマト・レタス・チキン・タマゴ・オニ
オンと盛り沢山に挟んであり、けどしつこくなくて美味(^-^*
これでRp1万以下だなんて安い。
先のカフェでのイヤな感じをすっかり忘れ、マンゴスチン一個食べて、本を
読みつつ就寝。

                             その8。につづく。